CHANGレポート 枯葉剤の影響は今も
盲目からの成長
2019年4月:ベトナム
キリスト教が運営している、テレサ・ファシュ。
ここでは現在90人程の子ども達が生活をしています。
半数ほどの子は身体や精神に障害を持っていて、その多くは目に障害があります。
この障害の原因はベトナム戦争です。1962年から1971年にかけてアメリカ軍が大量に撒いた枯れ葉剤という猛毒は、当時の480万人が直接浴びることになり、それが原因で健康被害を受けている人は300万人を越しているのです。
更にその後遺症は、枯葉剤を浴びた世代の孫である第3世代に留まらず、現在ではひ孫世代の第4世代にまで障害を残しているのです。
私たちがベトナムで訪問している施設は、正にこの第4世代、枯葉剤を浴びた人々のひ孫にあたる子ども達が保護されている施設なのです。
私たちがこの施設を初めて訪問したのが2014年11月でした。
この時いちばん印象に残ったのが、まだ2才のニーエッという男の子でした。
幼児用のベッドの中で、泣くこともなくおとなしく横たわっている子でした。
先生に抱っこされても殆ど反応はなく、白い膜で覆われた盲目の目を開いているだけの子でした。
両親も盲目、育てることができないとこの施設で保護することになったのです。
「生まれてから一度も世界を見たことがない赤ちゃん、かわいそうに」と思っていました。
ところが今、6才となったニーエッはピアノやピアニカを上手に弾き、教科書で勉強しているのです。
更には、友達の頭をひっぱたいたり、おもちゃの取り合いをしてたり、2才の頃には想像もできなかった音楽家であり、やんちゃ坊主に育ったのです。
ニーエッの成長をずっと見てきましたが、3才、4才のころは大きな変化はなく、ベッドで横になっている時間が多かったかと思います。
しかし2018年に訪問した時でした。彼がイスに座って英語の勉強をしているのです。
教科書にぐっと目を近づけて「apple!」と読み始めたのには驚きました。
先生に伺うと、シンガポールの病院で手術を受けたことから、左目だけ少し見えるようになったのです。
この先生は音楽教育にとても熱心で、前にも盲目の中学生の女の子がピアノのコンサートを開いてくれたこともがあります。
ニーエッもこの先生の指導のおかげで、両手で上手にピアノを弾けるようになっていました。
昨年訪問した時には、ピアニカ、ハーモニカ、ギターを届けました。
「来年はコンサートやってね」とニーエッに約束してきたのですが、今年は見事な彼の演奏を聞かせてもらうことができました。
光が見えてくると元気も出てくるのでしょうか。ニーエッは他の男の子とおもちゃの取り合いをしたり、何か気に入らないことがあると、大きな声で文句まで言うようになったのです。
目の手術はベトナムでは対応できないことから、シンガポールで行いました。
手術費用もそうですが、渡航費や滞在費も結構かかったことでしょう。
それでも資金さえあれば、こうした障害を持っている子に光を与えることができるのです。
支援というのは、特に日本人は“お金より物”という傾向が強いですが、こうした医療費などは現金が必要です。
日頃から考えていることですが、物だけでは子供を支えることはできないということを改めて実感しました。
この子たちは当時の戦争に参加してないどころか、自分の親ですら生まれてない時代の被害者なのです。
何の罪もなく、自分の行いに原因もない歴史の被害者です。
これからもこの子ども達にできる限りのことを続け、そしてニーエッの成長を見守って生きたと思います。